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東京地方裁判所 昭和38年(レ)671号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 藤森利美

右訴訟代理人弁護士 和久田只隆

被控訴人(附帯控訴人) 遠藤源六

右訴訟代理人弁護士 滝沢斉

同 大串兎代夫

右訴訟復代理人弁護士 水野東太郎

同 荒井秀夫

同 萩原剛

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴による拡張請求を棄却する。

控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、当事者間に争がない事実

1、被控訴人が本件土地を所有していること。

2、控訴人が本件土地の上に別紙目録(二)ないし(四)記載の建物を所有し本件土地を占有していること。

3、訴外源太郎が被控訴人の承諾を得て昭和二六年二月一日に本件土地を訴外竹内に賃貸し、訴外竹内が本件土地の上に別紙目録(二)記載の建物を所有していたが、右建物と本件土地の賃借権は昭和三一年一月七日に訴外竹内から訴外北原に、又昭和三四年九月八日に訴外北原から控訴人にそれぞれ譲渡されたこと。

二、争点に対する判断

(一)  賃借権の譲渡に対する承諾について

1、控訴人は被控訴人および訴外源太郎が前示賃借権の各譲渡をいずれもその譲渡の当時に承諾したと主張するが、本件に顕れた全証拠によつても右事実を認めることができない。

2、又被控訴人が訴外源太郎の代理人として訴外竹内から一坪当り九〇〇円の割合の権利金を受領し、(このことは当事者間に争がない)又訴外竹内に対し別紙目録(二)記載の建物に抵当権を設定することを承諾した(このことは原審証人竹内七郎の証言により認められる)からといつて、控訴人主張のように被控訴人および訴外源太郎が本件土地の賃借権の譲渡を予め一般的に承諾したものとは認め難い。

3、従つて本件土地の賃借権の譲渡について被控訴人および訴外源太郎の承諾があつたとの控訴人の主張は採用できない。

(二)  控訴人の建物買取請求について

控訴人は被控訴人に対し別紙目録(二)ないし(四)記載の建物を買取ることを請求するが、借地法第一〇条は建物買取請求の相手方を賃貸人と規定しているから、先ず被控訴人が本件土地の賃貸人であるかどうかについて判断する。

訴外源太郎が被控訴人の承諾を得て本件土地を訴外竹内に賃貸したことは前示のとおり当事者間に争がないが、被控訴人が訴外源太郎に対し控訴人主張のように本件土地を賃貸したことは本件全証拠によつても認めることができない。しかし被控訴人は右のとおり訴外源太郎に対し、本件土地を他に賃貸することによりこれを使用収益することを許したのであるから、両者の間には使用貸借の関係があるものと認める外はない。

そうすると被控訴人は本件土地の賃借人である訴外竹内に対する賃貸人でないことはもちろん、同人に対する賃貸人である訴外源太郎に対する関係においても使用貸借上の貸主にすぎないから、被控訴人に対してする控訴人の建物買取請求は失当である。

もつとも右のように解するときは土地所有者は土地を賃貸するに当り、建物買取義務を免れる意図の下に、自ら賃貸人として契約せず、自己の妻子等を賃貸人として契約するという形式を取ることにより、容易に右義務を潜脱することができるかのようであるけれども、そのような場合には脱法行為として土地所有者を賃貸人と同視して同人に建物買取義務を負わせることが考えられる。しかし本件においては被控訴人が建物買取義務を免れる意図の下に自己の子である訴外源太郎を賃貸人として契約したものであることについては十分な証拠がないから、前示の結論を左右することはできない。

(三)  被控訴人の損害賠償請求について

被控訴人は控訴人の本件土地占有により地代相当の損害を受けている旨主張する。しかし被控訴人は前示のとおり訴外源太郎に対し本件土地を無償で貸与したのであるから被控訴人と訴外源太郎との間の右使用貸借関係が継続しているかぎり被控訴人は本件土地を使用収益できないのであり、従つて第三者が本件土地を占有することによつて損害を受けたものということはできない。そうして被控訴人と訴外源太郎との間の右関係が終了したことの主張立証がない以上、更に判断を加えるまでもなく被控訴人の右主張は理由がない。

三、結論

そうすると被控訴人の建物収去土地明渡の請求は理由があるからこれを認容すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当である。しかし被控訴人の損害賠償請求(附帯控訴による拡張請求)は理由がない。

よつて控訴人の本件控訴および被控訴人の右拡張請求をいずれも棄却し、控訴費用および附帯控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条および第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野宏 裁判官 川上泉 青山正明)

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